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第三章 

26話)


「それは今から説明しますよ。」
 答える優斗の視線だって、真摯なものに変わっていた。
「ある事が原因で、彼女に相談していたんですが、にっちもさっちもいかなくなって、ここに助けを呼んだんです。
 結果。何とかなったんで、心配なく。」
 肝心な所を省いた説明だった。
「・・・。」
 一瞬、何かいいたげに口を開けた翔太だったが、結局は何も言わずに目をつむる。そして、再び目を開けた時、何かを悟ったかのような目付きに変わっていた。
「何とかなったってのは、信じていいのか?」
 と言った翔太のコメント・・。
 芽生は一瞬、耳を疑うところだった。
 てっきり翔太は、優斗にもっと詰めよって、詳しい説明を求めようとすると思ったからだ。
「信じてもらえるとありがたいです。」
 優斗の応えに、翔太はコクリとうなずく。
「分かった。この部屋が関わっての事だ。俺がどうこう言っても仕方のない問題なのだな?」
 最後の言葉尻は、疑問形だ。
 優斗がうなずくと、翔太は諦めたように、ため息をついた。
 ちょっとの沈黙の後、
「竹林・・君は、芽生と同じ・・高校だよな。」
 と、肩の力が抜けるような質問をしてくる。
 制服を確認した上での、コメントだろうけれど・・。
「そうです。」
「芽生はうまくやってるかい?」
「ええ、友達にも恵まれて、楽しんでやってる感じに見えますよ。
 逆に俺の方が、芽生に助けてもらって、救われたくらい。」
 ねっ。
 てな感じで、ニッコリ浮かべてくる笑顔が、例の笑顔だ。
(優斗マジック・・。)
 「・・・・。」
 言葉が出ずに、モジモジしだす芽生の様子を見た翔太は、一瞬。辛そうな顔をする。けれども、あっという間にそんな表情を奥深くにねじこんで、
「そうなんだ。こいつバカだから、よろしく頼むよ。
 妙な男に引っかからないように、見張っておいてくれ。」
 なんて言うのだ。翔太の中では、優斗はもう“妙な男”ではなくなったらしい。
「何がバカよ。高校でも私。ちゃんとやってるわ。」
 怒鳴り返す芽生に、優斗は少しだけ驚いた顔をした後、クスクス笑い出した。
「確かに彼女、抜けすぎな所ありますよね。」
 なんて、翔太の言葉を肯定するかのようなコメントを吐くのだ。
「優斗君まで・・そんな風に思っていたの?」
 と情けない声で詰めよってゆくと、
「よかったな、芽生。ちゃんと理解してくれているみたいじゃないか。」
 なんて、翔太が声をかけてくるのだから、思わずふくれっ面になる芽生の顔を見た男二人が、大爆笑する。
「マジ、その顔ウケるって。」
 優斗に言われて、さらに眉をひそめ出す芽生を、チラリと見てから、翔太は時計を見つめた。
 オッと軽く目を見開いて、
「・・意外に時間を食ってしまったな。じゃあ。俺はこれからクラブに顔をだすんで、これで失礼するよ。」
 と言って、部屋の中に入らずに、翔太は出口に向かって歩いて行く。
 何の用事で、彼等はこの部屋に来たのだろうか。
 いきなり翔太の姿をみたので動揺したのだが、幸徳での彼の様子を見たのは、これが初めてだったのを思いだす。
 名残りおしげに翔太を見つめる芽生の視線に、優斗が首をかしげた。そして、眉をひそめて見つめだすのに、気付かない。
「そろそろ帰ろうか。」
 優斗に声をかけられてハッとなって、芽生はうなずき返し、二人は部屋を後にするのだった。